「与○は木ぃぃぃぃを、切るうぅぅぅううぅぅううぅぅううぅぅうぅぅうう♪」
リュウが焼香し終わり、『合掌』した瞬間、葬儀会場中に響き渡った3バカ――キラとミーナ、グレルの『合唱』。
「――なっ……!?」
リュウとリンク、レオンが驚愕して3バカに顔を向けると、そこにはマイクを持ったつもりになって熱唱している3人。
「ヘイヘイホーっ♪」
さらにミラとサラ、リン・ランと声を揃えて続く。
「ヘイヘイホーっ♪」
「ちょっ……!?」
さらに驚愕したリュウとリンク、レオン。
慌てて焼香台から下りたリュウがキラとミーナの口を、リンクがグレルの口を、レオンがミラとサラの口を塞ぐ。
シュウはそんな3人の顔を見回したあと、はっとしてまだ歌っていたリン・ランの口を塞いだ。
「ちょ、母さんにミーナ姉、グレルおじさん、またまちがったことしたのかよ!?」
「?」
口を塞がれながら、一体何のことかときょとんとしている3バカ。
その傍ら、リュウ、リンク、レオンと、葬儀会場に集まった人たち――特に遺族に向かって謝罪する。
「いや、その……、悪気はねーんです、悪気は」
「すみません、すみません、すみません!」
「なにぶん元野生のモンスター2匹と、ほぼ熊1匹なものですから、そのぉ…、世間知らずでしてっ……!」
シュウも妹たちに頭を下げさせながら続いた。
「ごめいわくをおかけして、もうしわけございませんでしたっ……! ほ、ほらっ…、おまえたちもあやまれっ……!」
そんなリュウやリンク、レオン、シュウの顔を見回したあと、目を合わせた3バカ。
ようやく気付く。
「お、おい、ミーナ、グレル師匠。どうやら私たちはまた何か間違っていたらしいぞ」
「う、うむ、そのようだぞ、キラ、グレル師匠。何だ? 心を込めて歌ったつもりだったが、足りなかったのか?」
「おっかしーなあ。精一杯心を込めて『合唱』したのによ。選曲が悪かったのかあ?」
3バカを葬儀会場の隅へと引っ張っていき、説教をしたリュウとリンク、レオンだったが……。
その後も、焼香の際に抹香が鼻に入ったらしいグレルが、
「ぶえっっっくしょぉぉぉおぉぉおおおぉぉおぉおおおいっっっ!!」
と豪快なクシャミで抹香をふっ飛ばし。
さらに、出棺の際に棺の中に入れる供花を、キラとミーナが食ってしまい。
「おお、この花美味いぞミーナ!」
「おお、こっちの花も美味いぞキラ!」
葬儀の最初っから最後まで謝りっぱなしだったリュウとリンク、レオン、さらにシュウ。
それぞれ自宅に帰ったあと、どっと圧し掛かってくる疲れ。
キラが寝室のバスルームで三つ子を風呂に入れる一方、一階にある大きなバスルームへと向かって行ったリュウ。
湯船に浸かり、その長い手足を伸ばす。
正直、3バカに付き合っているとハンターの仕事よりも疲れるときがある。
(キラとミーナ、師匠のバカはもう手遅れだが……。それが子供たちに移っちまわないようにしねえと……)
と、深い溜め息を吐いたとき、浴室のドアが開いた。
姿を現したのは、シュウとミラ。
湯船へとやって来て、シュウはリュウから少しはなれたところに、ミラはリュウの膝の上に腰掛けて湯に浸かる。
「パパ、今日はごめんなさいっ……! わたし、ママたちのいうこと信じちゃってっ……!」
と涙ぐみながら言うミラの頭を撫で、微笑んだリュウ。
「いや、おまえは何も悪くないから気にするな、ミラ」
そう言ったあと、「でも」と顔を引きつらせた。
「ママとミーナ、グレルおじさんの言うことはあんまり信じるんじゃねーぞ……」
「はい、パパ」
とミラが承諾したあと、湯船から上がったリュウ。
ミラの身体を洗ってやりながら、シュウに背中を流させる。
ミラが先に風呂から上がって行ったあと、リュウは背後のシュウをちらりと見てから口を開いた。
「……で、どうかしたのか、シュウ」
ミラと共に浴室に入ってきたものの、むっつりとして一言も喋らないでいたシュウ。
リュウの背中をスポンジで擦りながら、ようやく口を開いた。
「……オヤジ、今日たいへんだったね」
「まあな」
「……あやまってばっかりだったね」
「そうだな」
「……オヤジも、人にアタマ下げることあるんだ」
「時にはな」
「…へ…ヘンな感じっ……」そう言い、声を詰まらせたシュウ。「ふだんはオレさまなのによっ……! ヘンだ、すごく。ヘンだ、ヘン。ヘン、ヘ……、うっ…、うわあぁああぁぁあぁああぁぁあん!」
と、突然泣き出した。
超一流ハンターの中でも飛び抜けて強く、日々たくさんの人々を救い、口に出しては言わないが、己の憧れで、とても尊敬している父親が、身内のやらかした罪で他人にぺこぺこと頭を下げている姿を見るのは正直辛かった。
堰を切ったように泣きじゃくるシュウを横目に、リュウはそういえば、と気付く。
(俺が他人に頭を下げる姿、子供たちは初めて見たかもしれねーな)
リュウは背にいるシュウの腕を引っ張ると、脚の間に置いた風呂椅子にシュウを座らせた。
シュウの背を流してやりながら、小さく溜め息を吐く。
「なーに泣いてんだ、バーカ」
「バカって言う方がバカァ! この、バカオヤジィィィィ――」
ゴスッ!
とシュウの言葉を遮ったリュウの拳。
シュウがアタマを抱えてますます泣き喚く中、リュウは続ける。
「あのな、シュウ。俺は一家の主だから、おまえたち家族がやらかしたことで謝るのは当然なんだよ」
「オヤジが他人にアタマを下げる姿なんて、にあわないんだぁああぁぁあぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあ!」
「似合う似合わないじゃなくてよ」
「オレがちゃんと母さんたちバカと妹たちのことを見てれば、オヤジはあんなにもアタマを下げずにすんだんだ! オレがっ、オレが――」
ぽん、と頭にリュウの手が乗ってきて、言葉を切ったシュウ。
「ま……、ありがとな、シュウ」
そんなリュウの台詞が背後から聞こえてきて、ぽっと頬を染めた。
「…う…、ううんっ……! オレ、もうオヤジがハジをかかないようにするねっ……!」
と、尾っぽをぱたぱたと振る。
「そうか。本当、ありがとな」
「えへへ」
「じゃ、行って来いよ」
「うんっ……――って」
と、リュウに振り返ったシュウ。
きょとんとして首を傾げた。
「どこへ?」
「ギルド長のところ」
「オレが?」
「おう」
「何しに?」
「謝りに」
「何で?」
「出棺のときによ、みーんな棺の方を見てるだろ? これはチャンスだと思ってキラの尻触ろうと思ってよ」
「はっ?」
「俺も棺をちゃんと見送ってるフリしつつ、キラの尻に手を伸ばしたつもりだったんだが、それがギルド長の尻でよ」
「……」
「車で帰ってくる途中、メールで謝れ謝れうるせーの何のって。謝りに来ないと副ギルド長から降格だって言うんだぜ?」
「…………」
「俺だって触りたくて触ったんじゃねーのによ、何てひでーんだあのオッサン。マジ信じらんねえ」
「………………」
「ってわけで、おまえ俺の代わりにちゃんと行って来いな。オッサンに痴漢して副ギルド長から降格されるなんて、前代未聞の赤っ恥だぜ。俺そんなことで謝りに行きたくねーから、おまえが行けな。俺に恥かかせたくねーんだろ? よろしくな。ああ、頼りになるなウチの長男は」
「……じ、じ、じっ……!」顔を引きつらせたシュウ。「自分で行けっ、この一家最大の恥さらしぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃいぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃぃいいっっっ!!」
と、屋敷中に絶叫を響かせた。
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