fc2ブログ
S M T W T F S
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
02« 2024/03 »04

第5話 偏食胃袋・巨大胃袋


 リュウ宅のリビング。
 長男・シュウ5歳の誕生日パーティーで、六女・マナ(0歳1ヶ月)がムシャラムシャラとゲテモノを堪能する傍ら。
 マナと共に産まれてきた五女・ユナと七女・レナの泣き声が響いた。

 今度は何だとリュウが訊くと、長女・ミラ(4歳)が涙目になって言う。

「ユナがっ……、ユナがごはん食べてくれないのよ、パパァ!」

「ああ、またか…。ユナの偏食は困ったもんだな……」

 続いて三女リン・四女ランも涙目になって言う。

「レ、レナのハラがソコなしですなのだ、ちちうえ! ごはんあっというまに5杯目でこわいですなのだあぁぁぁ!」

「ご、5杯目…? す、すげーな……」

 しかもレナの腹が、

 ごーーーぎゅるるるるるる…

 なんてでかい音を鳴らしている。

「うんうん♪ 健康な証拠だな♪ どれ、母上が離乳食の追加を持って来てやるぞ♪」

 と、キラが一度リビングから出てキッチンへと向かっていき、丼に離乳食のシチューをなみなみ注いで持って来てレナに食べさせる一方。
 シュウがユナを抱きかかえてシチューをスプーンですくい、ユナの口元に近づける。

「こら、ユナ! スキキライなくメシ食べねーと、大きくなれねーんだぞ! ほら口あけろ!」

「いにゃあぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあ!」

 と泣き叫んだユナ。
 指先に炎をおこし、シュウの顔面に吹き付ける。

「――うっわぁぁああぁぁあぁぁあ!」と後方に飛び退って尻を着き、シュウは顔面蒼白して声をあげる。「なっ、なんっっってことするんだユナ! 兄ちゃん丸こげになるじゃねーかっ!!」

「にゃあぁぁああぁぁああぁぁあん! パパァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 なんて呼ばれ、リュウがユナを抱っこする。
 普段から泣き虫のユナは、一番甘やかしがちなリュウに抱っこされると泣き止む子だった。

「よしよし、ユナ。おっかねー兄ちゃんで可哀相になあ」

「おっかねーってアンタに言われたくねーよ、オヤジ!!」

 と突っ込んだシュウに、

 ゴスッ!!

 とゲンコツを食らわし、リュウは泣き止んだユナにシチューをスプーンですくって近づける。
 鶏肉、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、ブロッコリーなどの具は全て避けて。

「ほら、口を開けろユナー」

 とリュウが言うと、素直に口を開けるユナ。
 具無しシチューを口に入れて飲み込み、嬉しそうにはしゃぐ。

「にゃあぁぁあんっ♪」

「おー、そーかそーか。美味いか、良かったなー」

 と笑んでいるリュウの顔を見て、シュウは頬を膨らませる。

(オレにはそんな顔しないクセにっ……!)

 なんて、ちょっとだけ妹に嫉妬してしまう。

「ちゃんとスキキライさせずに食わせろよ、オヤジ! そんなんじゃ、ユナでかくなれねーぞ!」

「あ? ハーフだから心配いらねーよ」

「そ、そうかもしれないけどっ…! でもっ……!」

「何むくれてんだよ」と眉を寄せたリュウ。「おまえも食わせてほしいなら素直に言えよ」

 なんて冗談で言ったが、シュウが頬を照れくさそうに染めて言う。

「そっ、そんなんじゃねーけどっ…! じゃ、じゃあ、ちょっとだけっ……」

「ったく、まだまだ甘ったれだな」

 と、溜め息を吐いたリュウ。
 ユナの嫌いな肉や野菜をシチューの中からスプーンですくい、あーんと口を開けて待っているシュウの口の中に入れてやる。

 そして黒猫の尾っぽを嬉しそうに振っているシュウを見て、リュウの傍らにいたリンクが笑った。

「可愛いなあ、おまえの息子。おまえのこと大好きやん」

「ふん……」

 と少しだけ照れくさそうに鼻を鳴らしたリュウを見てまた笑ったあと、リンクはレナにシチューを食べさせているキラに顔を向けた。

「それにしても、レナは好き嫌いなくて偉いなあ」

「うむ。ま…、またおかわりだぞ……」

「――って、まだ食うんかいな! どんな0歳1ヶ月やねん!」

 とリンクが仰天して突っ込んだとき。
 ガラステーブルの上に置いておいたリュウの携帯電話が鳴った。

「シュウ」

 とリュウが言うと、シュウがガラステーブルの上から携帯電話を取ってリュウに手渡す。

「だれから? オヤジ」

「ギルド長だな……」

 それを聞いたリュウの助手であるリンクと、弟子であるレオンが立ち上がった。
 きっと緊急の仕事だろうと思って。

 リュウが電話に出る。

「もしもし…、はい…、はい…、は……? …分かりました、すぐに行きます」

 と電話を切り、ユナをシュウに預けて立ち上がったリュウに、レオンが訊く。

「緊急の仕事?」

「仕事と言っちゃ仕事だが、少しの間ギルド長の仕事を頼まれた」

「え? ギルド長どうかしたの?」

「これから病院に行かなきゃならねーそうだ……、親父さんが危篤で」

「――えっ!?」

 と声をそろえたリンクとレオン。
 リュウが続ける。

「つーわけで、ギルドに行くぞおまえら。ミーナ、ギルドまで瞬間移動頼む」

「わ、分かったぞ!」

 と承諾したミーナが、リュウとリンク、レオンを連れてその場から瞬間移動で消え去った。

 一方、リビングに残ったキラとその子供たち、グレル。
 ミラが首をかしげながらキラに訊く。

「ママぁ、きとくって何?」

「死に掛けのことだぞ」

「ええっ!? ギルドちょうのおとうさんが!?」

「う、うむ…。寿命ならばリュウの治癒魔法は駄目だし、もしかしたら私は人生初の……いや、猫生初の人間の葬式とやらを経験か……?」

「かもしれんなあ」と、うんうんと頷くグレル。「キラおまえ、喪服買わなきゃだぞ」

「もふく?」

「黒いやつだ」

「む? ……ああ、何度か真っ黒な服を着た人間たちを見たことあるぞ! そうか、葬式にはあの真っ黒な服を着ていかなければならないのか! すごいぞーっ、さすがグレル師匠だぞーっ! 物知りだぞーっ!」

「がっはっはっは! そーかあー?」

「うむ! ここは遺族に無礼にあたってはならぬ! グレル師匠、私と子供たちに葬式でのことを教えてくれ!」

「よし、分かったぞーっと♪ おまえら、そこに座れ」

 との命令に、グレルの前に並んで座るキラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン。
 三つ子はシュウとミラ、サラの膝の上。

 そしてキラが真剣な顔をして待つ中、グレルが再び口を開いた。

「いいか、おまえたち。葬式に行ったらな…………」
 
 
 
 
本館『NYAN☆PUNCH!』

第6話 初・葬儀


 5月の半ば過ぎのこと。
 リュウとリンク、レオン、(一応)グレルが務めているギルドのギルド長の実父が亡くなった。
 それ故に、此度リュウ一行は喪服を身に纏い葬儀会場へとやって来た。

「うわあ、めっさ豪華やなーっ……」

 と、たくさんの生花であしらわれた祭壇を見て、リンクが目を丸くする。
 うんうんと同意して頷きながら、レオンが周りを見回す。

「会場も広いね」

「緊急の仕事がない葉月ギルドのハンターが全員集まるからなあ」

「そういや、ギルド長の仕事を代わりにやってたもんだから忙しくて教えるの忘れてたが……」と、リュウが家族に顔を向ける。「いいか、おまえたち。遺族に会ったら――」

「あ、リュウ」と、リンクがリュウの言葉を遮り、遠くを指差す。「ギルド長が呼んでるで。行って来いや」

 リンクの指した方向を見つめ、手招きしているギルド長の姿を確認した後、承諾したリュウ。
 トリプル抱っこしていた三つ子――ユナ・マナ・レナをリンクとレオンに渡し、そちらへと歩いていく。

 その途端、

「にゃああぁあぁぁあぁああん!」

 とユナが泣き出し、リンクとレオンが狼狽してあやす。

「おーっ、よしよし! 頼むからこんなところで泣かんといてーっ」

「お父さんすぐに戻って来るよ、ユナーっ」

 その傍ら。
 会場の中をきょろきょろと見回しているキラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ、グレル。
 ひそひそと小声になって話す。

「思ったより暗い雰囲気じゃないな、キラ」

「うむ、そうだなミーナ。だが、あまり笑ったりはしてはいけないのだろう? グレル師匠」

「おう。まったく知らねー爺ちゃんが死んだとはいえ、ここはやっぱり悲しんでるフリをしなきゃだぞーっと。おまえら、ハンカチを出せ」

 うんと頷いて承諾し、グレルに続いてハンカチを取り出すキラたち――キラとシュウ、ミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ。

「んで、泣くフリをするときはこれを瞼に当てろよ、おまえたち。多少大袈裟に泣いたフリするのもアリだぜ」

 と言うグレルに、キラたちは再び頷いて承諾する。

「それじゃ、遺族に挨拶に行くぞーっと」

 と言うグレルに、キラが再び周りを見回しながら訊いた。

「どれが遺族なのだ? グレル師匠」

「たぶんアレじゃねーか?」

 とグレルが指したのは、棺の前で悲しんでいる模様の人々。

「おお、きっとそうだぞ」

「うーん、いざとなると不安になるもんだな。この間何度も練習したとはいえ、おまえたちはみんな初めてだから不安だぞオレは」

「う、うむ。ちょっと不安といえば不安だぞ……」

「ここは絶対遺族に失礼に当たっちゃならねえ。よし、ここはオレが最初に手本を見せるから、おまえらはそれに続け」

 そういうことになり、グレルを先頭にしてキラたちが棺の前にいる遺族の元へと歩いていく。
 遺族に頭を下げられる中、遺体の顔だけを見ることのできる小窓から棺の中を覗き込んだグレル。

「はっ……!」

 と涙に声を詰まらせたフリをし、瞼にハンカチを当てた。
 それに倣い、

「はっ……!」

 とキラたちも瞼にハンカチを当てる。
 次にグレル、キラたちの順に遺族の方を向き。

 そして遺族に見つめられる中。
 グレルが、いざ、

「ご臨終だぞーっと」

 間違った挨拶を口からぶっ放した。

「――はっ?」

 遺族が呆然とする中、キラたちがしゃくり上げる演技をしながら続く。

「ご臨終ですっ……! 嗚呼、ご臨終っ!」

「――!?」

 遺族が驚愕すると同時に、キラたちの声が耳に入り、大慌てで駆けて来たリンクとレオン。
 遺族に向かって必死に頭を下げる。

「ご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様ですご愁傷様です!!」

 それを見て、グレルが呆れたように溜め息を吐いた。

「おい、おまえたちも葬式のマナー知らねーのかよ。子供って年でもねーのに、オレは恥かしいぞーっと」

「こっちの台詞やっちゅーねんっ!」

 と突っ込んだ後、リンクが遺族の前からグレルを引っ張って行く。
 続いてキラたちもレオンに引っ張られて行く。

 会場の隅へとやって来て、リンクは顔を真っ青にして声をあげる。

「なんっっっちゅーことをご遺族に言ってんねん、師匠っ!!」

「何がだよー?」

「ご遺族への挨拶は『ご愁傷様です』やろ!?」

「はあ? 死んだんだからご臨終じゃねーかよー。ったく、バカな弟子だぞーっと」

「まったくだぞ」と、キラが呆れたように溜め息を吐く。「リンク、おまえ私の可愛い弟のようなレオンにまで間違ったことを教えたのか? 何だ、『ご愁傷様です』って……」

「まぁーったく」とミーナも続いて溜め息を吐いた。「分かってはいたが、本当にバカだなわたしの主は。ペットとして恥かしいぞ、わたしは……」

 天然バカトリオ――キラ・ミーナ・グレルに哀れみの目で見つめられ、顔を引きつらせたリンク。
 次の瞬間、葬儀会場中に怒声を響き渡らせた。

「バカはおまえらやあぁぁああぁぁああぁぁあぁぁぁああぁぁああぁぁああぁあぁぁぁあっ!!」
 
 
 
 
本館『NYAN☆PUNCH!』

第7話 合唱。いいえ、合掌です 前編


 葬儀会場の隅で絶叫しているリンクのところへと、リュウがやって来て眉を寄せた。

「おい、リンクうるせーぞ。何騒いでんだよ」

「せやかて、リュウ! この天然バカトリオがっ……!」

 と、キラとミーナ、グレルを指差すリンクの一方、シュウがリュウのズボンを引っ張った。

「ね、ねえ、オヤジ。ごイゾグに会ったときのアイサツって、何て言うの?」

「ああ、そうだ。さっきそのことを言おうとしたんだが。いいか、おまえたち。遺族に会ったらお悔やみの言葉っていうのを言うんだ。『この度はまことにご愁傷様でした。謹んでお悔やみ申し上げます』ってな」

「ええっ!?」

「何だ、シュウ」

「グレルおじさんにごイゾクに会ったら『ご臨終です』って言えって言われたから、さっきみんなで言っちゃったよ!」

「――なっ……!?」

 顔を引きつらせたリュウ。
 きょとんとしている天然バカトリオの顔を見回したあと、脱力して背を向ける。

「遺族んとこ行って謝ってくる……」

「僕も……」とレオンが苦笑しながら続いた。「こっちだよ、リュウ。こっち。あのご遺族に失礼なこと言っちゃったんだ」

「そうか…。リンク、天然バカトリオと子供たちにマナー教えといて……」

 とリュウがレオンに着いて行く。

「オ、オヤジごめんっ……! …ああもうっ! オレもう、母さんの言うこともミーナ姉の言うことも、グレルおじさんの言うこともしんじねえっ!」

 と喚いたシュウも、リュウに着いて行った。
 リュウ・レオンと共に、遺族にぺこぺこと頭を下げて謝罪する。

 それを見ながら、天然バカトリオはようやく自分たちが間違っていたのだと実感する。

「グレル師匠、ミーナ、ど、どうも私たちが間違ってたみたいだぞ……」

「せやからさっきから言ってるやんっ!」

 と声をあげたリンク。
 リュウに言われた通り、天然バカトリオに葬儀のマナーを教える。

「ええか、司会者の葬儀開始の挨拶のあと、僧侶による読経・引導や。ええか、おとなしくしてるんやで…!? 騒いだりしたらあかんのやで……!?」

 うんうんと、頷く天然バカトリオと、ミラ、サラ、リン・ラン。
 それを確認したあと、リンクは続ける。

「んでそのあとの弔辞・弔電のときもおとなしくな!? で、そのあとお焼香っていうのが待ってるんやけど……。ええか、良く聞け」

 真剣な顔になり、再びうんうんと頷く天然バカトリオとミラ、サラ、リン・ラン。

「まず遺族から先にお焼香済ませるから、おれたちは後からなんやけど。自分の順番が回って来たら、まず次の人に軽く会釈や」と、ぺこりと会釈して見せたあと、リンクは続ける。「んで、焼香台の手前で、今度は親族に一礼な。ほいで焼香台に進んで、遺影を見つめてまた一礼。あ、遺影ってアレな。あの亡くなった方の写真な」

 とリンクの視線を追って天然バカトリオとミラ、サラ、リン・ランが遺影に顔を向けて確認したあと、リンクは続ける。

「で、お焼香するんやけど――」

「それはオレ知ってるぞーっと♪」と、グレルが口を挟んだ。「あの木の粉みてーのを、真ん中くらいに置いてる墨の上に乗せるんだろ?」

「せや。木の粉……ってか、抹香を真ん中の炭のところに静かにくべんねん。こう、親指と人差し指、中指で摘んで、目の高さまで捧げてからな。3回するんやで、分かったか?」

 うんうんと天然バカトリオとミラ、サラ、リン・ランが頷いたのを確認したあと、リンクはほっと安堵の溜め息を吐いた。

「で、あとは数珠を手に、故人又はご親族に対する思いを込めて『合掌』し、霊前を向いたまま2、3歩下がって一礼、遺族・僧侶にも一礼後、自分の席に戻ればええんや。分かったか?」

「おう、分かったぜリンク。焼香後は『合唱』し、霊前を向いたまま2、3歩下がって一礼、遺族・僧侶にも一礼してから自分の席に戻るんだな?」

「せや、師匠。みんなもええか?」

 承諾した天然バカトリオとミラ、サラ、リン・ランの返事を聞いたあと、リンクはリュウたちのところへと向かって行った。
 グレルがキラとその子供たち、ミーナを見回して言う。

「だってよ、分かったかおまえたち?」

「分かったぞ、グレル師匠! 今度こそ失敗しないぞ!」

 と言うキラに同意して頷く、キラの子供たちとミーナ。

「で」

 と、声をそろえたのはキラとグレル、ミーナ。
 お互い顔を見合わせながら首をかしげた。

「合唱って、何のだ?」

 ミラがキラのスカートを引っ張る。

「ねえ、ママ。ガッショウって?」

「あれだぞ。みんなで歌うやつだぞ。どうやら、1人1人が焼香とやらを済ませたあと、その都度合唱しなければいけないようだぞ。で、何を歌えば良いものか」

「うーん」と、ミーナが遺影に目を向ける。「じーさんだからなあ。渋い歌がいいのではないか?」

「つまり演歌かぁ? ……あっ!」パチンと指を鳴らしたグレル。「いいのがあるぞーっと♪ いいか、おまえたち……」

 と、キラとその子供たち、ミーナに顔を近づけた。
 
 
 
 
本館『NYAN☆PUNCH!』

第8話 合唱。いいえ、合掌です 中編

 葬儀会場の中、キラとミラ、サラ、リン・ラン、それからミーナは、グレルの口元に耳を近づけた。
 それから数分後、グレルの口元から離れ、キラ、ミーナと声を高くする。

「おおーっ、それが良いぞ!」

「うむ、さすがグレル師匠だぞーっ!」

 その足元、サラがうんうんと同意して頷く。

「いいウタだね」

 その傍らではミラが眉を寄せる。

「サラ、きにいったの? おねーちゃんは、ちょっとしぶいと思うわ……」

「しんだのがじーさんだからちょうどいいよ、おねーちゃん」

「えー、でもぉ……」

 とミラが顔を顰めたとき、リュウやシュウ、リンク、レオンが戻ってきた。
 リュウがキラたちを手招きしながら言う。

「葬儀が始まる。こっち来い」

 承諾し、リュウの元へと歩いていったキラ。
 リュウの顔を見上げて言う。

「良いか、リュウ。焼香では、『与○』だぞ、『与○』」

「は?」

 一方、ミーナはリンクに、グレルはレオンに言う。

「良いか、リンク。『与○』だからな、『与○』」

「何の話やねん?」

「いいか、レオン。『与○』だぜ、『与○』!」

「何が?」

 リュウとリンク、レオンが眉を寄せる中、葬儀は開始され。
 僧侶による読経・引導と弔辞・弔電中、キラとミラ、サラ、リン・ラン、ミーナ、グレルは、リンクに教わった通りおとなしくし(すぎて爆睡し)。
 そのあとの焼香の時間になると、気合を入れて立ち上がった。

「よし、頑張るぞ」

 と声を高くしたキラとミーナ、グレルの顔を見回し、リュウとリンク、レオンは再び眉を寄せる。
 一体何を考えているのかと。

「なあ、リンク」

「なんや、リュウ」

「おまえ、ちゃんとキラたちに焼香の仕方教えたよな」

「おう、しっかり教えたで」

「なら大丈夫だよな」

「おう、大丈夫なはずやで」

 だが、3バカ――キラとミーナ、グレルの様子を見ていると、どうも大丈夫な気がしないリュウとリンク、レオン。
 顔を見合わせたあと、リュウがリンクに続いてもう一度3バカに焼香の仕方を説明する。

「いいか。遺族のあとに、俺たちの焼香の番だ。自分の順番が回ってきたら、まず次の人に軽く会釈をしろ。その次は、焼香台の手前で親族に一礼。そして焼香台に進み、遺影を見つめてまた一礼だ。そして―― 」

「分かってるぞ、リュウ」と、キラがリュウの言葉を遮った。「そして、焼香をするのだろう? あの黄な粉を、3本の指でつまんで――」

 ビシッ

 とキラの言葉を遮った、リュウのデコピン。
 キラが「にゃっ」と短く声を上げて額を押さえる傍ら、リュウが溜め息を吐いて続ける。

「黄な粉を焚いてどうすんだ、バカ。葬儀会場が香ばしいじゃねーか。抹香だ、抹香」

「おお、そうだったぞ」

「で、抹香を親指と人差し指、中指で摘んで、目の高さまで捧げ、真ん中に置いてある墨の上に乗せて焼香。いいか、3回だぞ 」

「うむ。で、そのあと数珠を手に、故人や親族に対する思いを込めて『合唱』するのだろう? 」

「そうだ、『合掌』するんだ。そして霊前を向いたまま2、3歩下がって一礼し、遺族・僧侶にも一礼後、自分の席に戻る。いいな? 」

 うんうんと頷いて承諾する3バカ。
 それを見て、良しと安堵したリュウとリンク、レオン。
 でも念のため、リュウが最初に焼香を行って手本を見せることになった。

 順番としては、遺族の焼香のあとに、リュウ一同の焼香。
 遺族が焼香中、3バカは顔を寄せ合ってひそひそと会話する。

「おい、遺族は誰も『合唱』していないぞ。何故なのだ、グレル師匠?」

「ほ、本当だぞ、キラの言うとおりだぞ。何故誰も『合唱』しないのだ、グレル師匠?」

「遺族はひどく悲しんでっからなあ。『合唱』する気になれねーんじゃねーかぁ? ここはオレたちが、心を込めて精一杯『合唱』してやろうぜ♪」

 そんな3バカの小さな話し声を、灰色の猫耳をぴくぴくとさせながら聞いていたレオン。
 焼香している遺族を見ながら、眉を寄せた。

(ちゃんとしてるじゃない、『合掌』……)

 やっぱり何だかおかしい。

 とレオンが思ったとき、遺族の焼香が終わり、リュウの番がやって来た。
 リュウが次に並んでいるキラに「ちゃんと見てろよ」と小声で言いながら軽く会釈し、焼香台の手前まで行って、親族に一礼。
 そのあと焼香台へと進み、遺影を見つめて再び一礼。

 そして、焼香タイム。
 リュウが親指と人差し指、中指で抹香を摘み、焼香する様子を、3バカとミラ、サラ、リン・ランは後方から覗き込むように見つめる。

 そんな姿に、ますますレオンは眉を寄せる。
 おかしい。
 やっぱり、何かがおかしいと。

(何考えてるのか、キラたちに訊いて見よう)

 そう思い、レオンが小声で口を開こうとしたとき。

 リュウの焼香が完了。

 リュウが数珠を手に、目を閉じて『合掌』したその瞬間、

「せーのっ」

 とのグレルの言葉のあとに、

「与○は木ぃぃぃぃを、切るうぅぅぅううぅぅううぅぅううぅぅうぅぅうう♪」

 3バカの『合唱』が、葬儀会場中に響き渡った。
 
 
 
 
本館『NYAN☆PUNCH!』

第9話 合唱。いいえ、合唱です 後編

「与○は木ぃぃぃぃを、切るうぅぅぅううぅぅううぅぅううぅぅうぅぅうう♪」

 リュウが焼香し終わり、『合掌』した瞬間、葬儀会場中に響き渡った3バカ――キラとミーナ、グレルの『合唱』。

「――なっ……!?」

 リュウとリンク、レオンが驚愕して3バカに顔を向けると、そこにはマイクを持ったつもりになって熱唱している3人。

「ヘイヘイホーっ♪」

 さらにミラとサラ、リン・ランと声を揃えて続く。

「ヘイヘイホーっ♪」

「ちょっ……!?」

 さらに驚愕したリュウとリンク、レオン。
 慌てて焼香台から下りたリュウがキラとミーナの口を、リンクがグレルの口を、レオンがミラとサラの口を塞ぐ。
 シュウはそんな3人の顔を見回したあと、はっとしてまだ歌っていたリン・ランの口を塞いだ。

「ちょ、母さんにミーナ姉、グレルおじさん、またまちがったことしたのかよ!?」

「?」

 口を塞がれながら、一体何のことかときょとんとしている3バカ。

 その傍ら、リュウ、リンク、レオンと、葬儀会場に集まった人たち――特に遺族に向かって謝罪する。

「いや、その……、悪気はねーんです、悪気は」

「すみません、すみません、すみません!」

「なにぶん元野生のモンスター2匹と、ほぼ熊1匹なものですから、そのぉ…、世間知らずでしてっ……!」

 シュウも妹たちに頭を下げさせながら続いた。

「ごめいわくをおかけして、もうしわけございませんでしたっ……! ほ、ほらっ…、おまえたちもあやまれっ……!」

 そんなリュウやリンク、レオン、シュウの顔を見回したあと、目を合わせた3バカ。
 ようやく気付く。

「お、おい、ミーナ、グレル師匠。どうやら私たちはまた何か間違っていたらしいぞ」

「う、うむ、そのようだぞ、キラ、グレル師匠。何だ? 心を込めて歌ったつもりだったが、足りなかったのか?」

「おっかしーなあ。精一杯心を込めて『合唱』したのによ。選曲が悪かったのかあ?」

 3バカを葬儀会場の隅へと引っ張っていき、説教をしたリュウとリンク、レオンだったが……。

 その後も、焼香の際に抹香が鼻に入ったらしいグレルが、

「ぶえっっっくしょぉぉぉおぉぉおおおぉぉおぉおおおいっっっ!!」

 と豪快なクシャミで抹香をふっ飛ばし。
 さらに、出棺の際に棺の中に入れる供花を、キラとミーナが食ってしまい。

「おお、この花美味いぞミーナ!」

「おお、こっちの花も美味いぞキラ!」

 葬儀の最初っから最後まで謝りっぱなしだったリュウとリンク、レオン、さらにシュウ。
 それぞれ自宅に帰ったあと、どっと圧し掛かってくる疲れ。

 キラが寝室のバスルームで三つ子を風呂に入れる一方、一階にある大きなバスルームへと向かって行ったリュウ。
 湯船に浸かり、その長い手足を伸ばす。
 正直、3バカに付き合っているとハンターの仕事よりも疲れるときがある。

(キラとミーナ、師匠のバカはもう手遅れだが……。それが子供たちに移っちまわないようにしねえと……)

 と、深い溜め息を吐いたとき、浴室のドアが開いた。

 姿を現したのは、シュウとミラ。
 湯船へとやって来て、シュウはリュウから少しはなれたところに、ミラはリュウの膝の上に腰掛けて湯に浸かる。

「パパ、今日はごめんなさいっ……! わたし、ママたちのいうこと信じちゃってっ……!」

 と涙ぐみながら言うミラの頭を撫で、微笑んだリュウ。

「いや、おまえは何も悪くないから気にするな、ミラ」

 そう言ったあと、「でも」と顔を引きつらせた。

「ママとミーナ、グレルおじさんの言うことはあんまり信じるんじゃねーぞ……」

「はい、パパ」

 とミラが承諾したあと、湯船から上がったリュウ。
 ミラの身体を洗ってやりながら、シュウに背中を流させる。

 ミラが先に風呂から上がって行ったあと、リュウは背後のシュウをちらりと見てから口を開いた。

「……で、どうかしたのか、シュウ」

 ミラと共に浴室に入ってきたものの、むっつりとして一言も喋らないでいたシュウ。
 リュウの背中をスポンジで擦りながら、ようやく口を開いた。

「……オヤジ、今日たいへんだったね」

「まあな」

「……あやまってばっかりだったね」

「そうだな」

「……オヤジも、人にアタマ下げることあるんだ」

「時にはな」

「…へ…ヘンな感じっ……」そう言い、声を詰まらせたシュウ。「ふだんはオレさまなのによっ……! ヘンだ、すごく。ヘンだ、ヘン。ヘン、ヘ……、うっ…、うわあぁああぁぁあぁああぁぁあん!」

 と、突然泣き出した。
 超一流ハンターの中でも飛び抜けて強く、日々たくさんの人々を救い、口に出しては言わないが、己の憧れで、とても尊敬している父親が、身内のやらかした罪で他人にぺこぺこと頭を下げている姿を見るのは正直辛かった。

 堰を切ったように泣きじゃくるシュウを横目に、リュウはそういえば、と気付く。

(俺が他人に頭を下げる姿、子供たちは初めて見たかもしれねーな)

 リュウは背にいるシュウの腕を引っ張ると、脚の間に置いた風呂椅子にシュウを座らせた。
 シュウの背を流してやりながら、小さく溜め息を吐く。

「なーに泣いてんだ、バーカ」

「バカって言う方がバカァ! この、バカオヤジィィィィ――」

 ゴスッ!

 とシュウの言葉を遮ったリュウの拳。
 シュウがアタマを抱えてますます泣き喚く中、リュウは続ける。

「あのな、シュウ。俺は一家の主だから、おまえたち家族がやらかしたことで謝るのは当然なんだよ」

「オヤジが他人にアタマを下げる姿なんて、にあわないんだぁああぁぁあぁぁああぁぁあぁぁああぁぁあ!」

「似合う似合わないじゃなくてよ」

「オレがちゃんと母さんたちバカと妹たちのことを見てれば、オヤジはあんなにもアタマを下げずにすんだんだ! オレがっ、オレが――」

 ぽん、と頭にリュウの手が乗ってきて、言葉を切ったシュウ。

「ま……、ありがとな、シュウ」

 そんなリュウの台詞が背後から聞こえてきて、ぽっと頬を染めた。

「…う…、ううんっ……! オレ、もうオヤジがハジをかかないようにするねっ……!」

 と、尾っぽをぱたぱたと振る。

「そうか。本当、ありがとな」

「えへへ」

「じゃ、行って来いよ」

「うんっ……――って」

 と、リュウに振り返ったシュウ。
 きょとんとして首を傾げた。

「どこへ?」

「ギルド長のところ」

「オレが?」

「おう」

「何しに?」

「謝りに」

「何で?」

「出棺のときによ、みーんな棺の方を見てるだろ? これはチャンスだと思ってキラの尻触ろうと思ってよ」

「はっ?」

「俺も棺をちゃんと見送ってるフリしつつ、キラの尻に手を伸ばしたつもりだったんだが、それがギルド長の尻でよ」

「……」

「車で帰ってくる途中、メールで謝れ謝れうるせーの何のって。謝りに来ないと副ギルド長から降格だって言うんだぜ?」

「…………」

「俺だって触りたくて触ったんじゃねーのによ、何てひでーんだあのオッサン。マジ信じらんねえ」

「………………」

「ってわけで、おまえ俺の代わりにちゃんと行って来いな。オッサンに痴漢して副ギルド長から降格されるなんて、前代未聞の赤っ恥だぜ。俺そんなことで謝りに行きたくねーから、おまえが行けな。俺に恥かかせたくねーんだろ? よろしくな。ああ、頼りになるなウチの長男は」

「……じ、じ、じっ……!」顔を引きつらせたシュウ。「自分で行けっ、この一家最大の恥さらしぃぃぃぃぃぃぃいいぃぃいぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃぃいいっっっ!!」

 と、屋敷中に絶叫を響かせた。
 
 
 
 
本館『NYAN☆PUNCH!』
BACK | HOME | NEXT